マーケットアプローチ法の初級知識について説明をします。代表的な計算方法にEBITDA倍率法があります。
EV/EBITDA倍率法とは、企業価値(EV)とEBITDAとの比率をもとに企業価値、理論的な時価総額を計算する方法です。EVは、有利子負債の金額と時価総額の合計です。EBITDAは、金利、税金、減価償却費、無形固定資産の償却費の4つを差し引く前の利益を指します。
EBITは、借入金や社債の支払利息と税金を差し引く前の利益のことであり、実質的には本業の儲けである営業利益とほぼ同じようなものです。後半のDAとは、減価償却費と特許権やのれんといった無形固定資産の償却費を指します。
これらの2つは、集計された時にキャッシュの支払いが行われる費用とせずDAをEBITに足し戻して、DAを差し引く前の利益、すなわちキャッシュフローベースに置き直します。EBITDAはキャッシュフローをベースに計算した本業からの儲けを指します。ざっくりと説明すれば、直近の対象会社の本業の儲けの何倍で取引するのかを見るために使います。なお、この方法は、類似した上場企業の数値を使用するため、株式市場の影響を受けます。では、計算方法を説明します。
(1)類似会社の抽出と選定
対象会社と事業内容、事業構造、規模などが類似している同業他社を複数社抽出します。EBITDA倍率方式では、時価総額情報が必要となりますので、抽出する類似会社は株式上場会社となります。一般に、比較対象会社は5~10社程度です。また、比較対象会社により、結果が大きく変わるのもこの評価方法の特徴です。
(2)倍率の算出
抽出された比較対象会社について、EBITDAの何倍が“事業価値”“企業価値”になるのかを算出します。具体的には、比較対象として抽出された各社の倍率から中央値もしくは平均値を求めて算出します。この際、異常値が出ている候補企業は倍率計算から除去します。
(3)事業価値、株主価値の算出
上で算出した倍率を対象会社の指標にかけて、対象会社の事業価値を計算します。その理論的な事業価値に非事業資産の価値を加え、この合計額から有利子負債を減算して、理論的な株式価値を計算します。
では、現実にM&AではEBITDAの何倍で取引されているかですが、ブルーンバーグ社によりますと、日本企業が買収側として参加したM&A案件は、16,844件あり、EBITDAマルチプルを計算できたM&A案件は2,798件。そのEBITDAマルチプルの中央値は7.19倍と報告されています。同社によりますと、2015年単年では11.5倍となっています。これがひとつの基準値になると考えます。