クロスボーダーM&A


国家安全保障に悪影響を及ぼす対内M&A、すなわち、わが国の企業が有する軍民両用技術の海外移転を目的とするM&Aへの支援・助言は一切行いません。

西側諸国が足並みをそろえ軍事転用が可能な製品や技術(軍民両用技術)の輸出管理と輸出規制を強化し規制強化が進んでいます。

わが国では、2019年に外国為替及び外国貿易法(外為法)が全会一致で改正され、既に施行されました。
財務省が指定する規制対象業種に属する上場企業の場合、全ての議決権の1%以上を取得するM&Aなどは、事前届出が必要です。(ただし、ポートフォリオ投資を除く)
規制対象業種となる業種に属する株式を上場していない企業の場合は、1株の売買から事前審査や事後報告の対象となります。
外為法違反の罰則は、法人の場合は、最高で懲役10年、罰金10億円、個人の場合は、最高で懲役10年、罰金3000万円ですので、注意ください。

2018年8月アメリカ合衆国では、2019年度国防権限法(外国投資リスク審査現代化法、FIRRMAを含む)が上下両院で共和党及び民主党の圧倒的多数で可決され、トランプ前大統領が署名し成立しました。この法律により、対米投資委員会(CFIUS)が審査する範囲が大幅に広がり権限も強化され、FIRRMAは2020年2月から施行され、外国への技術移転に厳しい審査が行われるようになりました。更に注目すべきは、FIRRMAでは、国家安全保障に影響する外国人の不動産所有を対米投資委員会による審査対象に追加したことです。
アメリカの国防総省は「共産中国の軍事企業」リストを公表しています。バイデン政権となった2021年1月時点では44社がリストに載っており、これら44社との取引には、企業の社会的責任(CSR)の観点からも、M&Aに限らず、接触は慎重にするべきでしょう。

2021年4月イギリスでは、国家安全保障上重要な分野の英国企業に対する買収規制を強化する国家安全保障・投資法が成立。17の主要分野での特定の取引を対象とし、規制対象分野のイギリス企業の買収を意図する企業や投資家は政府に対し、買収に関するできる限り多くの情報を正式に通知し、許可を得ることが義務付けられます。安全保障上のリスクがあると判断された場合は、イギリス政府が取引を阻止または一部制限する可能性があります。

規制強化の背景には、中国の国策「軍民融合政策」があります。軍民融合政策とは「中国共産党が人民解放軍を世界クラスの軍に発展させるため、民間企業を通じて外国の技術を含む重要・新興技術を取得・転用する戦略」であると、アメリカ国務省は定義しています。日本企業には、中国企業との合弁会社を経由して軍民両用技術が、軍事企業集団により軍事転用されないかを入念に調査することが求められます。

2020年12月、中国政府は輸出管理法を施行しました。中国の輸出禁止・輸出制限技術リストや中国版エンティティ・リストとの組み合わせで、中国にある合弁会社で開発した技術や製品が、輸出規制や再輸出規制、みなし輸出規制やみなし再輸出規制の対象となり、アメリカのFIRRMAと中国の輸出管理法との股裂きになる可能性が高くなっています。中国への進出は、見合わせることをお勧めしています。

国内では、「軍民両用技術を持つ日本企業を買収したい。」と違法案件を唆す外国人や外国人を代理する者もいます。わが国の安全保障を脅かしかねない話に巻き込まれ、外為法に違反しないように、十分に気を付けてください。